家計簿アプリのザイム(Zaim)を入れようとして、指が止まった経験はないでしょうか。
銀行のIDとパスワードを入力する画面。あそこで一度、誰でも冷静になります。正直、私も最初はそうでした。
ただ、この「安全性」という言葉がくせ者です。ひとことで聞いてしまうと、答えが出ません。中身が3つに割れているからです。
まもる
しろこの記事では、ザイムの公式ページと利用規約、それに金融機関側が公表している資料だけを使って、3つの問いに順番に答えていきます。私自身、銀行とカードを連携させた状態でザイムを使っています。使っている側から見て、どこが気になったかも書きます。
情報はすべて2026年8月15日時点で確認したものです。
- 「安全性」という問いが、実は3つの別々の質問に分かれること
- 同じアプリでも、連携先によって預けている物がまったく違うこと
- あなたの家計データが、属性と購買履歴の計12項目として外部に提供されていること
- その属性6項目のうち5つが、プロフィール設定で自分が入力する欄と対応していること
- レシート読み取りが、いちばん解像度の高いデータを作っていること
- そのデータ提供を止める方法と、止められない範囲
「安全性」は1つの質問ではない。3つに割って考える
先に結論を書きます。ザイムの安全性を確かめたいなら、聞くべきことは3つです。
1つ目は、盗まれないか。外から侵入されて情報漏洩が起きないか、口座を不正利用されないか。世間で「危険」と言われるとき、指しているのはたいていこの話です。
2つ目は、平常時にデータがどこへ出ていくのか。これは事故ではなく、規約に沿った正常な運用の話になります。
3つ目は、何かあったとき誰が責任を負うのか。事故が起きた後の話です。
多くの人が心配しているのは1つ目だけです。そして検索して出てくる記事も、ほぼ1つ目にしか答えていません。
けれど実際に規約を読むと、2つ目のほうがはるかに広い範囲に関わっていました。しかも合法で、利用者は同意済みです。個人的には、ここがいちばんの驚きでした。
3つの問いを、順番に見ていきます。
問い①:盗まれないか。公式が公表している対策を読む
ザイムは、自社のセキュリティ対策を公開しています。まずはそこから確認しました。
保存しているもの、保存していないもの
公式のセキュリティページには、保存する情報の範囲がはっきり書かれています。
保存しているのは、連携先のログインIDとパスワードです。一方、次のものは保存していないと明記されています。
- 銀行の振込用の暗証番号
- クレジットカード番号
- カードの有効期限
- セキュリティキー
ワンタイムパスワードと画像認証については、一度使ったあとに破棄すると書かれています。
この線引きには意味があります。ザイムがやっているのは、明細を読み取って家計簿に落とす作業です。お金を動かす操作は含まれません。だから振込用の暗証番号は要らない、という理屈になります。
通信については「2048bitのEV-SSL」という表記でした。認証情報は通常のデータとは別の場所に隔離して保管する、とも書かれています。
制度上の位置づけ
ザイムは電子決済等代行業者として、関東財務局長(電代)第7号の登録を受けていると公表しています。
これは2017年の銀行法改正で作られた登録制度です。銀行の口座情報を扱う事業者を、金融庁の監督下に置くという枠組みですね。無登録の事業者に口座情報を渡すのとは、前提がまるで違います。
りんISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得についても記載がありました。ただし、この点には後で触れます。取得したという一文だけでは、判断できないことがあるからです。
自分でやる設定が4つある
公式ページには、利用者側で有効にできる機能も並んでいました。
- ログイン時の二段階認証
- アプリのパスコードロック
- 指紋認証(Touch ID)と顔認証(Face ID)
- ログイン履歴の確認と、メールアドレスへの通知
この中では、二段階認証の方式に注目しました。
公式のヘルプによると、Google AuthenticatorやAuthyといった認証アプリを使う方式です。SMSで数字を送る方式ではありません。
これは地味ですが、いい判断だと思います。SMS方式には、携帯番号を乗っ取られると突破されるという弱点があるからです。認証アプリ方式なら、その経路が使えません。Web版の設定は「設定 → アカウント設定 → 2段階認証を設定」から進みます。
さて、ここで正直に書かなければいけないことがあります。
この記事を書くために設定画面を開いて、気づきました。私は二段階認証を有効にしていませんでした。

情報セキュリティの記事を書いている人間が、です。何年も使っているアプリで、です。言い訳はありません。画面を見た瞬間、少し血の気が引きました。
まもる
しろなぜこうなるのか、考えてみました。二段階認証は、初回登録のときに聞かれません。使い始めるのに必要ないからです。そして家計簿アプリは、一度設定したら設定画面を開くことがほとんどない。開く用事がないんですね。
用意されている機能と、有効になっている機能は別物です。頭では知っていました。それでも自分のアカウントでは抜けていた。
この記事を読んでいる方は、たぶん今、自分はどうだったかなと思ったはずです。その足で確認してみてください。私はこの原稿を書いている途中で設定しました。
ひとつ、書き添えておきます。
設定を終えてから気づいたのですが、アカウント設定の一覧画面は、有効にしても表示が変わりません。「2 段階認証を設定」というリンクのまま、設定前とまったく同じです。
有効かどうかを確かめるには、そのリンクを押して、さらに本人確認を通す必要があります。パスワードの再入力です。そこまで進んで、ようやく「二段階認証が有効になっています」という表示にたどり着きます。
つまり、一覧を眺めているだけでは分からない作りなんですね。
まもるこれも抜けが放置される一因だと思います。確認するのに2段階たどらせるのなら、一覧の時点で状態が見えたほうが親切ではないでしょうか。
設定してみて、もうひとつ分かったこと
実際に手順を進めて、画面が切り替わった瞬間に気づきました。
設定画面のヘッダーが「くふうアカウント 共通設定」になっていたのです。

完了画面には、赤字でこう書かれていました。
スマートフォンとバックアップコードどちらも紛失した場合、すべてのサービスにログインできなくなります。ご注意ください。
すべてのサービス、です。Zaimだけ、ではありません。
つまりこの二段階認証は、Zaim単体の設定ではありませんでした。くふうアカウントという共通のアカウント基盤に対する設定です。この一連の画面の下部にも、こう明記されています。
「くふうアカウント」は、家計簿アプリ くふう Zaim を運営する株式会社くふうカンパニーのアカウントサービスです。
これは、良い面と気をつける面の両方があります。
良い面は、一度設定すれば紐づくサービスすべてに効くことです。設定の手間が1回で済みます。
気をつける面は、逆も同じだということ。このアカウントが破られたとき、影響はZaimだけにとどまりません。家計簿アプリのアカウントを守る、という意識でいると、守っている範囲を見誤ります。
りんそしてもうひとつ。バックアップコードは必ず保存してください。
認証アプリを入れた端末を紛失して、バックアップコードも手元にない。この状態になると、公式の警告どおり全部が開かなくなります。二段階認証を入れる作業は、締め出されるリスクを自分で背負う作業でもあります。印刷するか、別の端末のパスワード管理ツールに入れておくのが安全です。
コードは後から再ダウンロードできます。ただし画面にはこう注記されていました。
コードを再ダウンロードすると、以前にダウンロードしたバックアップコードは使用できなくなります。
つまり再発行した時点で、古いコードを印刷した紙は紙くずになります。念のため取り直しておこう、という何気ない操作が、手元の控えを無効にする。ここは引っかかりました。
つまり問い①への答えは、こうなります。事業者側の対策と制度上の位置づけは公表されており、確認できる。ただし、その上に自分で乗せる設定が残っている。
問い②:預けている物は、連携先ごとに違う
ここからが本題です。同じザイムを使っていても、連携先によって預けているものが違います。この事実は、公式のよくある質問を2つ読み比べて分かりました。
API連携なら、ログイン情報を預けていない
ザイムのFAQには、API連携についてこう書かれています。連携先のログイン情報をザイム側で保存しません、と。
パスワードは連携先の金融機関だけが持つ状態になります。だからセキュリティの高い連携方法だ、というのが公式の説明です。
これは銀行のオープンAPIを使う方式ですね。利用者は銀行の画面でログインし、ザイムには「明細を見る権限」だけが渡ります。パスワードそのものは通過しません。
一方で、多くのカード連携は今もID・パスワードを預けている
問題はここからです。
ザイムはAPI対応済みの連携先を一覧で公開しています。実際に開いてみて、少し驚きました。
一覧は「銀行」と「その他」の2つに分かれています。そして「銀行」の区分が、ページのほとんどを占めていました。地方銀行が延々と並び、その末尾に信金、信用組合、農林中金、労金の行が続きます。
↓ 枠の中はスクロールできます
問題は最後の「その他」です。ここに入っているのが全部で22項目しかありません。しかも中身は証券会社、暗号資産の取引所、生命保険、ポイントサイトが混ざっています。
カード類だけ抜き出して、名前を眺めて気づきました。「エムアイカード」という文字が付くものが8つあるのです。ゴールド、スタンダード、プラスの3枚に加えて、商業施設、スポーツチーム、不動産、自動車ディーラーとの提携カードが5つ。
一方で、JCB、三井住友カード、楽天カード、イオンカード、dカード。こうした大手の汎用カードは、この一覧に見当たりませんでした。汎用カードで名前があるのはセゾンカードとUCカードくらいです。
私が使っているカードのうち、API対応していたのは1枚もありませんでした。今にして思えば、当然の結果でした。
まもる
しろAPI非対応の連携先は、いわゆるスクレイピング方式になります。ザイムがあなたの代わりにログインして、Web明細を読み取る。そのためにIDとパスワードを保存する必要が出てきます。
前述の通り、公式が「保存しているのはログインIDとパスワード」と書いているのは、この方式のことです。
なぜカードだけ取り残されているのか
背景には制度の非対称があります。
銀行については、2017年の銀行法改正で電子決済等代行業が登録制になり、API開放が進みました。ところがクレジットカード会社との接続には、同じような法的な後押しがありません。標準化の議論自体は2010年代後半に行われましたが、義務化や努力義務化には至っていない、という指摘があります。
結果として、銀行はAPI、カードはID・パスワード預託、という状態が並んで残りました。
だから「ザイムは安全ですか」「連携は危険ですか」という問いには、そのままでは答えられません。どこと連携しているかを言ってもらわないと、預けている物が特定できないからです。
| 連携方式 | ログイン情報の保管 | 主な対象 | 利用者から見たリスク |
|---|---|---|---|
| API連携 | ザイム側は保存しない(公式FAQ) | 銀行、信金、信組、労金、証券が中心 | ザイム側が破られてもログイン情報は出ない |
| スクレイピング連携 | ログインIDとパスワードを保存 | API未対応のカード会社など多数 | 保管先が破られたときの影響範囲が広い |
ここまでの話は、ザイムに限った話ではありません。家計簿アプリ全般に共通する構造です。カテゴリ全体の見取り図は、こちらの記事にまとめています。
家計簿アプリの危険性をたった2分で回避!専門家が教える”3つ”のセキュリティ設定と選び方
問い③:平常時、データはどこへ出ていくのか
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
侵入されて漏れる話ではありません。規約どおりの、正常な運用の話です。
匿名加工情報として、12項目が外部に提供されている
ザイムは「匿名加工情報の取り扱い」というページを公表しています。個人情報保護法は、匿名加工情報を継続的に第三者提供する事業者に、対象となる情報の項目を公表するよう求めています。その公表がこれにあたります。
冒頭の一文が、すべてを言っています。
当社は、当社が保有する以下の項目の情報につき、特定の個人を識別すること及び作成に用いる個人情報を復元することができないよう法令に基づいた適切な保護措置を講じ、匿名加工情報を作成し、継続的に第三者提供を行います。
継続的に第三者提供を行います、と書いてあります。将来やるかもしれない、ではありません。

そして、書かれていた項目が次のとおりでした。
| 区分 | 公表されている項目 |
|---|---|
| 属性情報 | 性別/年齢/居住エリア/家族構成/職業/世帯収入 |
| 購買履歴情報 | 購買日/購買時間/購買価格/商品名/利用店舗/決済手段 |
合わせて12項目です。
正直、この一覧を見たときは手が止まりました。世帯収入と家族構成、そこに商品名と利用店舗と時刻が並ぶ。マーケティングの側から見れば、これ以上ないほど質のいいデータです。
提供方法についても記載があります。データファイルを暗号化し、セキュリティが確保された状況で提供する、とのことでした。
もうひとつ、書いておきたいことがあります。このページ、これで全部なんです。
パソコンの画面に、スクロールなしで収まりました。継続的に第三者へデータを提供します、という公表が、この分量で完結している。法令が求める項目は満たしているのだと思います。ただ、家計の全記録を預けている側からすると、もう少し読みでがあってもいい気はしました。
属性6項目は、自分で入力していた
ここで気になったことがあります。属性情報の6項目は、どこから来るのか。
思い当たって、自分のアカウントの設定画面を開いてみました。プロフィール設定です。
並んでいたのは、ニックネーム、家族構成、職業、都道府県、市町村、性別、生年月日でした。

| 公表されている属性項目 | プロフィール設定の入力欄 |
|---|---|
| 性別 | 性別 |
| 年齢 | 生年月日 |
| 居住エリア | 都道府県/市町村 |
| 家族構成 | 家族構成 |
| 職業 | 職業 |
| 世帯収入 | 見当たらない |
6項目のうち5つが、プロフィールの入力欄と対応しています。
念のため書いておくと、入力した値がそのまま提供されると公表されているわけではありません。項目名が対応している、という観察です。ただ、自分で入力した覚えのある欄が並んでいるのを見ると、話が急に具体的になります。
そして、2つ引っかかりました。
1つ目。「居住エリア」の実体は、市町村まででした。
公表ページで「居住エリア」という言葉だけを読んだとき、私は都道府県くらいを想像していました。実際の入力欄は、都道府県と市町村が別々に用意されています。粒度がひとつ細かい。
2つ目。世帯収入だけ、入力欄が見当たりませんでした。
他の5つは自分で入力するのに、世帯収入だけ入力する場所がない。ではどこから来るのか。家計簿に記録された収入から導かれている可能性は考えられますが、公開情報からは確認できませんでした。ここは推測の域を出ないので、要確認として残します。
まもる
しろもうひとつ、プロフィール設定の画面には、こんな説明が添えられていました。
これらの情報を記入しておくと、今後ほかのユーザーとの統計データと比較など、さまざまな便利機能がご利用いただけるようになります。
便利機能のための入力、として案内されています。嘘は書かれていません。統計データとの比較は実際に使える機能です。
ただ、その同じ項目名が、匿名加工情報の公表ページに並んでいる。この2つのページを並べて読んだ人は、たぶんそう多くありません。
なお、これらの入力は任意です。 私の画面では、いくつかの欄が「選択してください」のまま空欄でした。埋めていない項目については、そもそも渡すものがない、という理屈になります。プロフィールを埋めないという選択は、今日この瞬間からできることのひとつです。
レシート読み取りが、いちばん解像度の高いデータを渡している
ここで、自分の使い方を振り返って気づいたことがあります。
私はレシート読み取り機能を使っています。買い物のあとにレシートを撮ると、品目と金額が自動で家計簿に入る。手入力より圧倒的に楽で、正直これがないと続きませんでした。
ただ、先ほどの12項目と並べて見ると、意味が変わってきます。
銀行やカードの明細から分かるのは、店の名前と合計金額くらいです。ところがレシートには、商品名が1行ずつ載っています。時刻も、支払い方法も、そこに印字されています。
| データの入り口 | 分かること | 12項目のうち埋まる部分 |
|---|---|---|
| 銀行連携 | 引き落とし先と金額 | 購買日/購買価格/決済手段 |
| カード連携 | 店舗名と金額 | 購買日/購買価格/利用店舗/決済手段 |
| レシート読み取り | 商品名まで1行ずつ | 上記に加えて商品名/購買時間 |
つまり、いちばん便利な機能が、いちばん細かいデータを作っています。
まもるこれは責める話ではありません。私はこれからもレシート読み取りを使います。ただ、便利さと引き換えに何を渡しているかは、知っておいたほうがいいと思いました。
「Zaim トレンド」という事業が実在する
これは抽象的な可能性の話ではありません。実際に事業になっています。
購買ビッグデータの統計分析ツールとして「Zaim トレンド」「Zaim トレンド for リテール」が提供されています。小売チェーンの動向を可視化したり、来店客数や客単価、顧客属性を見たりする用途ですね。
2023年2月24日のプレスリリースでは、「年間総額1兆円超の購買記録」とうたわれていました。注記には「2023年2月自社調べ。2022年1年間の家計簿アプリ『Zaim』に記録された支出総額を集計した結果」とあります。
しろこれは自分の使い方とも重なります。私は以前、有料のプレミアムを契約していました。今は無料で使っています。お金を払うのをやめても、サービスは同じように動き続けている。当たり前のように受け取っていましたが、その裏側には収益の柱がもう1本ある、ということですね。
念のため書き添えると、これは隠されていた話ではありません。規約とポリシーで公表されており、利用者は同意したうえで使っています。批判すべき話ではなく、知ったうえで選ぶ話です。
止めたい場合の方法と、そのハードル
このデータ提供は止められます。ただ、その方法に少し引っかかりました。
公表ページには、匿名加工情報としての情報提供停止の旨を記載のうえ、お問い合わせフォームから連絡してほしい、と書かれています。
アプリの設定画面にトグルがあるわけではありません。文章を書いて送る必要があります。
このハードルは、実質的には小さくないと感じました。設定画面を眺めていても気づけない仕組みだからです。
さらに、停止できる範囲と、停止後に過去分のデータがどう扱われるかについては、このページに記載が見当たりませんでした。ここは公開情報からは分からなかった部分です。
ここが落とし穴
3つの問いから少しはみ出すところに、気になった点がいくつかありました。
「ISMS取得」の一文だけでは、範囲が分からない
公式ページには、ISMSを取得していると書かれています。
ただ、認証の登録番号と適用範囲(スコープ)の記載は見当たりませんでした。
ISMSの認証は、組織全体に一律でかかるものではありません。適用範囲を組織が自分で決めて、その範囲について審査を受ける仕組みです。だから「どこまでが範囲か」を見ないと、認証の意味は測れません。
これは相手を疑うという話ではなく、認証の読み方の問題です。取得の事実と、適用範囲は別の情報なんですね。
なお、ISMS-ACの登録組織検索で登録内容を確認するところまでは、今回できていません。この点は後述の要確認事項に回します。
ISMSという仕組みそのものについては、法人セキュリティ側で連載を書いています。認証の読み方を知りたい方はこちらへどうぞ。
ISO/IEC 27001の全体像|規格を知らないと、ベンダーとの会議で何も言えなくなる
事故が起きたとき、誰が窓口になるのか
ここは規約を読んでいて、いちばん考え込んだところです。
ザイムのアグリゲーションサービス利用規約には、免責の条項があります。合理的な安全管理措置を講じていた場合、情報漏えいによる損害について責任を負わない、という趣旨の記載です。
同じ規約には、こうも書かれています。当社のアグリゲーションサービスは金融機関等が提供するものではなく、また当社は金融機関等を代理・媒介する権限を有するものでもありません、と。
一方、銀行側はどう公表しているか。ある地方銀行が公開している電子決済等代行業者との契約内容には、次の記載があります。
提供サービスに関して、利用者に損害が発生した場合、電子決済等代行業者が利用者への対応窓口となり、損害の賠償又は補償を行います。
この2つを並べると、利用者から見た補償の入口が明確でない、という読み方ができます。銀行側は「窓口も賠償も電代業者」と書き、電代業者側の規約は「合理的な措置を講じていれば免責」と書いているからです。
ただし、これは規約の文言から導いた推論にすぎません。実際の事案でどう判断されるかを、私が保証できるものではありません。銀行によって契約内容の公表の仕方も違います。ここは断定を避けて書きます。
言いたいのは、補償されないということではありません。契約を確認する立場から見ると、責任の分かれ目は自分で読んでおくべき箇所だ、ということです。
運営会社の名前が「Zaim」ではない
細かいようで、実は大事な点です。
規約上の事業者名は、株式会社くふうカンパニーでした。サービス名も現在は「くふう Zaim」です。
前述の二段階認証の設定画面にも、同じことが書かれていました。「くふうアカウント」は株式会社くふうカンパニーのアカウントサービスである、と。規約の奥まで行かなくても、設定画面まで進めば目に入る場所に書いてあります。
かつての株式会社Zaimは、くふうカンパニーの子会社となり、その後に商号が変わっています。この沿革を一次資料で最後まで追い切れてはいませんが、少なくとも今の規約に書かれている契約相手は、くふうカンパニーです。
なぜこれが大事か。何かを問い合わせるとき、規約を確認するとき、探すべき社名が違うからです。「Zaim 個人情報」で検索しても、現在の規約は kufu.jp のドメインに移っています。私も今回、リンク切れに何度かぶつかりました。
連携をやめても、記録は消えない
これは規約というより仕組みの話です。
連携を解除すれば、それ以降の自動取得は止まります。ただし、それまでに家計簿へ取り込まれた明細は、アカウントの中に残ります。
退会するのか、データを消すのか、連携だけ切るのか。3つは別の操作です。ここを混同すると、「やめたつもりが残っていた」という状態になります。
筆者の立場からの考察:第三者提供は「規約で確かめる」ものだと思う
ここからは、自治体のシステム運用を20年以上やってきた立場からの見方です。
仕事柄、外部の事業者にデータを渡す場面を何度も見てきました。そのとき必ず確認するのが、契約書と仕様書に「提供先で何がされるか」がどう書いてあるか、という点です。
不思議なのは、この習慣が個人の生活にはまったく持ち込まれていないことです。
自治体が住民のデータを外部に渡すときは、目的・項目・期間・再委託の可否を書面で詰めます。ところが自分のことになると、家計の全記録を、規約を読まずに預けている。私自身がそうでした。
りん家計簿アプリの安全性を確かめるというのは、広告の文言を読むことではないと考えています。次の3つを、事業者が自分で公表した文書で確かめる作業のことです。
- 預けている物は何か(保存する情報の範囲と、連携方式)
- どこへ何が出ると書いてあるか(第三者提供・匿名加工情報の公表)
- 事故のとき誰が窓口だと書いてあるか(免責条項と、金融機関側の公表)
そして今回いちばん強く感じたのは、この3つのうち2つ目がほぼ誰にも読まれていない、ということでした。
侵入されて漏れる話には、みんな敏感です。けれど「規約どおりに、正常に出ていく」話には、驚くほど反応がありません。実際に外に出ている量で言えば、後者のほうが圧倒的に大きいはずなのに。
監査の考え方でいえば、これは統制の不備ではなく、設計そのものです。設計を確かめずに「安全ですか」と聞いても、答えは返ってきません。
自己判定表:あなたはどこまで確認できているか
| 確認項目 | 確認できている | 確認していない場合に起きること |
|---|---|---|
| 連携先ごとに、API連携かスクレイピング連携かを把握している | □ | ID・パスワードを預けている自覚がないまま使い続ける |
| 二段階認証を有効にしている | □ | パスワードが他所から漏れたとき、そのまま入られる |
| アプリのパスコードロックまたは生体認証を設定している | □ | 端末を手に取られた時点で家計が全部見える |
| 匿名加工情報として提供される12項目を読んだ | □ | 提供に同意している事実に気づいていない |
| データ提供を止めたい場合の申請先を知っている | □ | 止められることを知らずに、諦めるか退会する |
| レシート読み取りが商品名まで記録することを意識している | □ | いちばん細かいデータを、いちばん気軽に作り続ける |
| プロフィール設定に何を入力したか覚えている | □ | 便利機能のつもりで埋めた欄が、属性項目と対応していることに気づかない |
| 連携解除・データ削除・退会の違いを理解している | □ | やめたつもりで記録が残る |
| 利用規約の免責条項を一度は読んだ | □ | 事故時に想定と違う扱いになって初めて気づく |
8項目のうち、私が最初から確認できていたのは2つだけでした。長く使っているほど、確認したつもりになっているものですね。
なお、パスワードの使い回しについては別記事で詳しく書いています。連携アプリを使うなら、ここが土台になります。
パスワード管理アプリの危険性|プロが教える安全な選び方と5つの設定術
判断の分かれ道:使う/使わない/条件つきで使う
私の結論は、条件つきで使える、です。連携先を選び、設定を入れ、データの二次利用を承知したうえでなら、家計簿アプリの利便性は十分に釣り合うと考えています。
ただ、これは万人向けの結論ではありません。判断が変わる条件を並べておきます。
| あなたの状況 | 向いている選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 銀行口座の残高と引き落としを自動で追いたい | API対応の銀行だけ連携する | ログイン情報をアプリ側に預けずに済む |
| クレジットカードの明細もまとめて見たい | 預ける前提で、カード側の設定を固める | 多くのカードはスクレイピング連携。カードの二段階認証と利用通知メールを併用する |
| 購買データが統計として外に出るのが気になる | 問い合わせフォームから提供停止を申請する | アプリ内の設定では止められない |
| 商品名まで記録されるのは避けたい | レシート読み取りを使わず、合計額だけ手入力する | 明細に載るのは店舗名と金額まで。商品名は入らない |
| 属性を渡したくない | プロフィール設定の欄を埋めない、または空に戻す | 入力は任意。埋めていない項目は、そもそも渡すものがない |
| 金融データを外部に預けること自体を避けたい | 連携せず手入力で使う、または使わない | 連携しなければ、預ける物も出ていく物も発生しない |
| 家族と端末を共有している | パスコードロックと生体認証を先に設定する | 連携以前に、端末を開かれた時点で全部見える。共用のパソコンで使ったら必ずログアウトする |
| 過去にパスワードを使い回している | ザイム用のパスワードを新規に作り直す | 使い回しは、他所の漏えいが直接そのまま効いてくる |
使うのをやめるべきだ、とは書きません。ただ、預ける物と出ていく物を知らないまま使うのは、また別の話だと思っています。
まとめ
- 「ザイムの安全性」は、盗まれないか/どこへ出ていくか/誰が責任を負うか、の3つに分かれる
- 保存されるのはログインIDとパスワードまで。API連携ならそれも預けないが、API対応は銀行系が中心で、多くのカードはスクレイピング連携
- 属性6項目と購買履歴6項目が、匿名加工情報として第三者に提供されると公表されている
- その属性6項目のうち5つは、プロフィール設定の入力欄と対応している。入力は任意で、埋めないという選択もできる
- 銀行・カード連携より、レシート読み取りのほうが細かいデータ(商品名・時刻)を作っている
- 提供は止められるが、アプリ内の設定ではなく問い合わせフォームからの申請になる
- 規約には免責の条項があり、銀行側は「電代業者が窓口」と公表している。責任の入口は自分で読んでおきたい
- 結論は、条件つきで使える。連携先を選び、設定を入れ、二次利用を承知したうえでなら
引っかかった点
正直に書き残しておきます。
過去の障害の記録が追えなかった。 2018年3月に、他の利用者の取引明細が別の利用者の画面に表示される不具合があった、という情報を検索で見かけました。ただし公式のお知らせページは現在リダイレクトされて消えており、アーカイブも今回の環境からは取得できませんでした。独立した裏取りができていないため、本文には事実として書いていません。過去のお知らせがサイト移行で参照できなくなること自体は、あちこちで起きています。
条番号を特定しきれなかった。 利用規約の免責条項と、金融機関との関係を述べた条項について、条番号を確定できませんでした。本文では条番号を書かず、趣旨だけを書いています。うろ覚えで番号を書くくらいなら、書かないほうがいいと考えました。
「1兆円」が何を指すか、読み方に迷った。 注記を読むと、アプリに記録された支出総額の集計です。売り上げでも、外部提供された金額でもありません。数字が大きいので、そのまま引用すると誤解を招くと感じました。
匿名加工情報の公表ページに、公表日と改定日がなかった。 いつ時点の内容なのかが読み取れませんでした。制度の性質上、更新時期は分かるようになっていてほしいところです。
参考にした一次資料
すべて2026年8月15日に確認しました。内容は変わる可能性があります。必ずご自身でも最新版をご確認ください。
