自治体の情報システム担当をしていると、テレワークの相談は必ず一度は回ってきます。育休明けの職員から、あるいは防災担当から。
ただ、庁内のネットワーク構成図を思い浮かべた瞬間、話が止まる。LGWANという三文字が引っかかるからです。
総務省のガイドラインは、たしかに公開されています。要件も細かく書いてあります。
けれど、そこに書かれているのは守るべき条件であって、自分の団体がどの方式を選ぶべきかではありません。
ベンダーに聞けば自社製品の話になります。近隣の団体に聞いても「うちは規模が違うので」で終わることが多いでしょう。
判断材料が揃わないまま、検討だけが年度をまたいでいく。そんな状況に心当たりがあるかもしれません。
導入後のトラブルも似ています。つながらないと言われても、原因が自宅側なのか庁内側なのか分からない。問い合わせだけが担当者に積み上がっていきます。
この記事では、LGWAN環境でテレワークが止まる理由を、三層分離の仕組みから順に説明します。そのうえで、画面転送方式とVPNの違い、LGWAN-ASPという選択肢、方式を選ぶ4つの視点を整理しました。
業務の棚卸しから試験導入までの流れと、つながらない時の切り分け手順も後半に置いています。
読み終えたときに、「うちはこの方式で、まずはこの業務から試そう」と言えるところまで持っていければと思います。
- LGWANでテレワークが止まる理由がわかる
- 画面転送方式とVPNの違いがわかる
- 自団体に合う方式を選べるようになる
- つながらない時の切り分けができる
自治体テレワークがLGWANで止まる理由
- なぜ今テレワークが必要なのか
- 三層分離とLGWAN接続系の壁
- 庁外端末から直接つなげない前提
- 端末にデータを残さない設計が必須
- 認証・持ち出し制限の要件とは
なぜ今テレワークが必要なのか
自治体にとってのテレワークは、もう「あると便利な福利厚生」ではありません。職員の働き方を守り、住民サービスを止めないための土台の仕組みへと変わりました。
理由は、現場が抱える事情が一度に重なったからなんですね。子育てや介護との両立、採用試験の受験者数の減少、そして台風や大雪で庁舎にたどり着けない日。どれも「毎日出勤できて当たり前」を前提にはできない話ばかりです。
総務省も、テレワークを「働き方改革の切り札」「行政サービス向上への効果」「災害時や感染症流行時の行政機能維持」という三つの意義で位置づけています(総務省「地方公共団体におけるテレワークの推進について」令和8年1月30日付通知)。
では、実際にはどこまで広がっているのでしょうか。最新の調査結果を見ると、規模による差がくっきり浮かび上がります。
| 団体区分 | 導入済み団体数 | 導入率 |
|---|---|---|
| 都道府県(47団体) | 47団体 | 100% |
| 指定都市(20団体) | 20団体 | 100% |
| 市区町村(1,721団体) | 1,063団体 | 61.8% |
| うち一般行政職員数100名以下(482団体) | 167団体 | 34.6% |
| 全体(1,788団体) | 1,130団体 | 63.2% |
※令和7年10月1日現在。「導入」には正式導入630団体と試験的・実験的導入500団体が含まれます(総務省「地方公共団体におけるテレワークの取組状況調査結果」)
都道府県と指定都市は導入率100%。ところが職員100名以下の小規模団体では34.6%にとどまり、前年からの伸びもわずか1団体です。
同じ「役所」という言葉でくくられていても、内側の景色はまるで違うのですね。
正直なところ、この差は職員のやる気や意識の問題ではありません。未導入658団体のうち「導入予定なし・未定」と答えた611団体では、約7割にあたる418団体が「テレワークになじまない窓口業務や現場業務に従事している職員が多いため」を理由に挙げています。
小規模団体が導入時に苦労した点も、上位は「窓口・現場業務の扱い」44団体、「情報セキュリティの確保」39団体、「導入コスト」29団体でした。つまり、やりたくてもできない構造的な壁がそこにあるということです。
一方で、テレワークに慎重な立場の意見にも耳を傾ける必要があります。調査の自由記述には「通常業務と同等の質が確保できるか疑問」「職場のほうが集中できる」「コミュニケーションやマネジメントを考えると必要性を感じない」といった声も並んでいました。
導入した団体でも、押印や紙の回覧が残っていれば在宅の日ほど仕事が滞る、という現象は起こります。万能薬ではない、という前提は共有しておきたいところです。
それでも、月に数日「家から資料を作れる」状態があるかどうかで、育児中の職員の負担はまるで変わります。実際、小規模団体が導入した目的の第1位は「災害時等における業務継続性の確保」78団体、次いで「柔軟・多様な働き方の実現」35団体でした。
自治体テレワークの導入率は全体で63.2%。都道府県・指定都市は100%の一方、職員100名以下の団体は34.6%と大きく出遅れています。壁になっているのは意識ではなく、窓口業務・セキュリティ・コストという構造的な三つの課題です。
そして、この「やりたくてもできない」の中心にあるのが、次にお話しするネットワークの構造なのです。
三層分離とLGWAN接続系の壁
自治体のパソコンは、なぜ自由にインターネットへつながらないのでしょうか。答えは「三層分離」と呼ばれる、庁内ネットワークの厳格な仕切りにあります。
きっかけは2015年に起きた日本年金機構の情報漏えい事故でした。個人情報が外部に流出した反省を受け、総務省は同年11月の「新たな自治体情報セキュリティ対策の抜本的強化に向けて」などにより、庁内のネットワークを大きく3つに分けるよう求めたのです。
イメージとしては、一軒の建物を三つの区画に仕切り、行き来できる扉を厳しく制限した状態が近いでしょうか。火事が起きても燃え広がらないよう、防火扉で区切っておく考え方に似ています。
三層分離とは、庁内ネットワークを「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の3つに分け、相互の通信を厳しく制限する方式のことです。
三つの区画は、扱う情報も役割もはっきり分かれています。

| 区画 | 主に扱う業務 | インターネット | テレワークの可否 |
|---|---|---|---|
| マイナンバー利用事務系 | 住民税、国保、福祉など | 遮断 | 対象外としなければならない |
| LGWAN接続系 | 文書管理、庁内メール、財務会計など | 原則遮断 | 条件を満たせば可能 |
| インターネット接続系 | Web閲覧、外部メールなど | 接続可 | 制約は比較的少ない(別途、テレワークセキュリティガイドライン等に沿った対策は必要) |
※総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和7年3月改定)」をもとに整理
ここで、いちばん誤解されやすいのが真ん中のLGWAN接続系です。LGWANは Local Government Wide Area Network の略で、日本語では「総合行政ネットワーク」と呼ばれます。全国の自治体同士を結ぶ行政専用のネットワークです。
起案文書を回したり、庁内メールをやり取りしたりする日常業務は、たいていこの区画の中で完結します。外に開いていないからこそ、住民情報に近い重要なデータが守られてきたわけですね。
ただし、守りが固いぶん副作用も出ます。区画をまたいでファイルを自由に移すことはできませんし、インターネット側で受け取った資料は無害化処理を通す必要があります。「添付ファイルを開くまでに何回クリックするんだろう」とこぼす職員さんの気持ち、思い当たる方も多いのではないでしょうか。
特に見落とされがちなのが、テレワークの適用範囲です。令和7年3月改定のガイドラインでは、マイナンバー利用事務系はテレワークの対象外としなければならないと明記されています。
さらにLGWAN接続系であっても、大量または重要な住民情報を扱う業務は、庁舎と同等の物理的対策があるサテライトオフィスの場合を除き、テレワークの対象外とすることが適当とされています(総務省 令和8年1月30日付通知)。
つまり「テレワークを導入した」と言っても、全職員が全業務を家で行えるわけではないのです。ここを曖昧にしたまま制度設計を進めると、後から対象業務を絞り直すことになりかねません。
なお、壁の形は少しずつ変わりつつあります。令和6年10月2日のガイドライン改定では、LGWAN接続系の業務端末から特定のクラウドサービスを直接利用する「α’(アルファダッシュ)モデル」が新たに規定されました。
分離一辺倒からの見直しが進んでいます。とはいえ、各団体が具体的にどのモデルを採用できるかは条件次第ですので、詳細は必ず総務省の最新ガイドライン本文でご確認くださいね。
三層分離は2015年の情報漏えい事故を受けて広まった仕組みです。LGWAN接続系は行政専用の閉じたネットワークで、マイナンバー利用事務系はテレワーク対象外。この線引きが、自治体テレワークの出発点になります。
なお、三層分離が日々の業務にどれだけ時間的な負荷をかけているのかは、テレワーク以外の場面でも無視できません。無害化処理や区画間のファイル移動で失われる時間について、こちらの記事で詳しく整理しています。

原則としての大前提は、今も大きくは変わっていません。次はその前提を、自宅から見た視点で確かめてみましょう。
庁外端末から直接つなげない前提
在宅勤務の朝、自宅のパソコンを開いてLGWANにログインする。残念ですが、この流れは原則として成り立ちません。庁外の端末から直接LGWANへ入ることは想定されていないのです。
LGWANは外部から切り離された閉域のネットワークだからです。自宅の光回線やモバイル通信は、そのままでは入口にたどり着けません。鍵を持っていないというより、そもそも扉が道路に面していない、という感覚が近いでしょうか。
そのため自治体テレワークの方式は、実務上ほぼ二つに整理されています。
| 方式 | 仕組み | 手元に残るもの | 向いている使い方 |
|---|---|---|---|
| 画面転送型(リモートデスクトップ) | 庁内のLGWAN接続系端末を遠隔操作する | 画面の映像のみ | 通常の起案・資料作成 |
| LGWAN-ASP利用型 | LGWAN上で提供される業務アプリを使う | サービス側の仕様による | 特定業務やグループウェア |
代表例としてよく名前が挙がるのが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が共同で提供する「自治体テレワークシステム for LGWAN」です。職員の自宅端末から庁内のLGWAN接続系端末へリモートアクセスする仕組みで、令和2年度の実証実験を経て、令和4年度からは試行事業として続いています。
この試行事業は全国の地方公共団体を対象に公募のうえ無償提供されており、令和8年1月27日時点で1,104団体が利用しています(総務省 令和8年1月30日付通知)。
実際、調査結果でも「コストが課題だったが、J-LISが無償提供する自治体テレワークシステム for LGWANを利用して解決した」という小規模団体の回答が複数挙がっていました。予算の壁を越える手段として、現場で選ばれてきた形ですね。
ただし、この仕組みは商用サービスではありません。IPAの利用条件には、学術的・試験的な実証実験として無償・無保証で提供されること、事前の予告なく停止・終了する可能性があることが明記されています。導入を検討する際は、必ずIPA「自治体テレワークシステム for LGWAN」の公式サイトで最新の条件をご確認ください。
言い換えると、職員が動かしているのは自宅のパソコンではなく、庁舎の自席にあるパソコンです。自宅の画面はモニターとキーボードの役割に近く、データ本体は庁内から一歩も出ません。

しろ私も導入初期、帰宅時に庁内PCをシャットダウンしてしまい、在宅勤務日に繋がらず焦った経験があります。部署間で責任が曖昧になりがちなので、電源管理のルールは真っ先に文書化しましょう。
この点は、ノートパソコンを持ち帰るタイプの働き方とは発想が根本から異なります。庁内端末の電源、停電、自宅回線の不調。どれか一つ崩れれば、その日の業務は止まってしまうのです。
LGWANは閉域網のため、自宅から直接は接続できません。実務上の選択肢は画面転送型かLGWAN-ASP利用型の二つ。無償の試行事業も1,104団体が利用していますが、実証実験という位置づけである点は押さえておきましょう。
この「データは庁内に置いたまま」という考え方こそ、自治体テレワークの心臓部にあたります。
端末にデータを残さない設計が必須
自治体テレワークで絶対に外せない条件を一つだけ選ぶなら、これです。手元の端末にデータを残さないこと。ここが崩れると、三層分離で守ってきた意味がほとんど失われます。
画面転送型が選ばれる理由も、まさにそこにあります。庁外の端末に届くのは画面の映像であって、ファイルそのものではありません。ビデオ通話で書類を見せてもらっている状態を想像すると、しっくりくるでしょうか。
映ってはいても、手元には残らない。この一点が設計の要になっています。
仕組みの上でも、複数の歯止めが用意されています。総務省が示すテレワークセキュリティ要件(「新型コロナウィルスへの対応等を踏まえた地方公共団体におけるLGWAN接続系のテレワークセキュリティ要件について」)では、次の機能を使えないようにすることが求められています。自治体テレワークシステム for LGWAN も、この要件に沿った画面転送方式で提供されています。
| 制限される機能 | 内容 | 防ぎたい事故 |
|---|---|---|
| ファイル共有 | 庁内端末と手元端末の間でファイルを移せない | ファイルの持ち出し |
| クリップボード共有 | コピー&ペーストで内容を持ち出せない | 文面の抜き取り |
| プリンターリダイレクト | 自宅のプリンターで印刷できない | 紙での流出 |
| USBリダイレクト | USBメモリ等の記憶媒体を使えない | 不正な持ち出し |
※IPA「自治体テレワークシステム for LGWAN 利用条件等」に記載のセキュリティ要件をもとに整理
うっかり操作による事故を、人の注意力ではなく仕組みで防ぐ。この発想が徹底されているんですね。
意外と見落とされがちなのが、こうした設計が生む日常の不便さです。手元にファイルが降りてこないので、自宅で印刷することも、USBに保存して持ち歩くこともできません。大きな図面や動画を扱う作業では、通信状況によって画面がカクついてしまうこともあります。
さらに、自宅の通信環境が業務品質に直結する点も見過ごせません。家族が動画を見ている時間帯に操作がもたつく、という話は現場でよく聞きます。調査結果では、貸出用のモバイルWi-Fiを用意して環境を整えた団体の事例も紹介されていました。
そして忘れてはいけないのが、技術で防ぎきれない抜け道です。IPAの利用条件でも、画面キャプチャやクラウドへのアップロードといった操作によって情報の持ち出しが可能になる場合があると注意喚起されています。スマートフォンで画面を撮影されれば、システム側では止められません。ここは運用ルールと職員研修で塞ぐしかない領域です。
しろ教科書的にはNGですが、実務ではここまでやれば合格ラインという線があります。私が担当した団体では、キャプチャを技術的に完全封鎖するのではなく、「操作ログを取得していること」を職員に明示する運用に切り替えました。抑止力としては、こちらのほうが現実的に機能します。
もっとも、この不便さは裏返せば大きな安心材料でもあります。万一パソコンを紛失しても、中に住民の情報は入っていません。その一点が担当課にとってどれほど心強いか、想像に難くないですよね。
画面転送型は、ファイル共有・クリップボード・印刷・USBをまとめて封じることで「手元に残さない」を実現します。不便さと引き換えに紛失時のリスクを最小化する設計ですが、画面撮影などの抜け道は運用ルールで補う必要があります。
とはいえ、データを残さないだけでは守りきれない部分が残ります。それが「今つないでいるのは、本当に本人なのか」という問題です。
認証・持ち出し制限の要件とは
画面転送で情報が残らなくても、なりすましでログインされてしまえば意味がありません。だからこそ、入口の本人確認と持ち出しルールが、技術対策とセットで求められます。
まず認証です。支給端末にログインする際のユーザ認証を必須とすること、そして長さや文字種を定めたパスワードポリシーを整備することが、要件として示されています。
加えて、辞書に載っているキーワードをパスワードに設定しないといった細かな条件も定められています。
さらに、接続できる端末や場所にも制限がかかります。総務省の要件に沿って整理すると、次のような姿になります。
| 対策の区分 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 端末 | 接続元は貸与端末を推奨。私物端末(BYOD)を使う場合は別途対策が必要 |
| 権限 | 管理者権限は付与せず、標準ユーザ設定で貸与する |
| 通信 | 公衆無線LAN等によるインターネット接続は禁止。無線LANはWPA2・WPA3などを使用 |
| 場所 | 交通機関や飲食店など、不特定多数と共有する環境での作業は避ける |
| 画面 | 端末へののぞき見防止フィルターの実装を検討 |
| 資産管理 | 持ち出した端末を追跡できる環境を整備し、許可されていない端末の接続を禁止 |
※IPA「自治体テレワークシステム for LGWAN 利用条件等」に記載の総務省テレワークセキュリティ要件をもとに整理
特に注意したいのが、カフェやコワーキングスペースでの利用です。公衆無線LAN等を利用したインターネット接続は要件上禁止されています。
例外は「海外のホテルなど情報セキュリティ水準が不明な回線を使わざるを得ない場合に、通信の暗号化によりend-endの秘匿性を確保する」といった限定的なケースのみで、「少しだけなら」という判断は重大なルール違反になり得ます。出張先で作業する可能性がある場合は、事前に接続手段を決めておいてください。
総務省のガイドラインでも、外部からのアクセス制限に関する規定を参照するよう案内されています(総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」)。分離だけに頼るのではなく、認証と経路の確認を重ねる考え方ですね。
そして忘れてはいけないのが、デジタル以外の持ち出しルールです。画面転送をどれだけ厳しくしても、紙の資料を鞄に入れて帰ってしまえば穴が空きます。
実際、調査結果には「画面上に表示される個人情報を家族等が閲覧しないよう、職員へのセキュリティポリシー徹底を図った」という団体の声が載っていました。ダイニングテーブルで作業する日に、背後から画面が見えていないか。そんな生活に近いところまで、ルールは降りてくるのです。
一方で、こうした要件には運用の重さもついてきます。認証にカードやトークンを使う仕組みであれば、それを家に忘れた日は業務を始められません。人事異動のたびに、登録や解除の作業も発生します。情報政策担当の方にとって、決して軽い負担ではないでしょう。
だからこそ、対象業務を絞ってスモールスタートする団体が多いのです。総務省の手引きでも、「できるところからまずやってみる」「部署単位ではなく業務単位で検討する」という考え方が示されています。
端末へのログイン認証を徹底し、端末・通信・場所まで含めて制限をかける。そのうえで紙資料やのぞき見といったアナログの穴を運用ルールで塞ぐ。この三段構えが、自治体テレワークに求められる要件の全体像です。
ここまでで、LGWANという壁の正体と、テレワークに求められる条件が見えてきました。では実際の自治体は、この条件をどう満たし、どんな選択肢の中から自分たちに合う形を選んでいるのでしょうか。
LGWAN対応テレワークの選び方と進め方
- 画面転送方式とVPNの違い
- LGWAN-ASPという選択肢
- 自団体に合う方式を選ぶ4視点
- 業務棚卸しから試験導入までの手順
- つながらない時の切り分け手順
画面転送方式とVPNの違い
方式選びで最初につまずきやすいのが、この二つの違いです。ひとことで言えば、画面転送は「映像だけを届ける」、VPNは「道そのものをつなぐ」仕組みだと考えてください。
まずは全体像から整理しましょう。総務省のテレワークセキュリティガイドライン第5版(令和3年5月公表)では、テレワークの方式が7つに分類されています。
7方式とは、VPN方式・リモートデスクトップ方式・仮想デスクトップ(VDI)方式・セキュアコンテナ方式・セキュアブラウザ方式・クラウドサービス方式・スタンドアロン方式を指します(総務省「テレワークセキュリティガイドライン第5版」)。
このうち自治体のLGWAN接続系で主役になっているのが、リモートデスクトップ方式、いわゆる画面転送です。前述の通り、手元の端末にデータを残さない設計と相性が良いためですね。
一方のVPN方式は、自宅の端末と庁内ネットワークの間に暗号化されたトンネルを作る考え方です。トンネルが開けば、手元の端末で直接ファイルを開いたり保存したりできます。作業感は、庁内とほとんど変わりません。
ただ、その快適さがそのままリスクに変わります。ファイルが自宅の端末に降りてくる以上、紛失や盗難が情報漏えいに直結してしまうからです。
二つの違いを、実務目線で並べてみますね。

| 比較の観点 | 画面転送(リモートデスクトップ) | VPN |
|---|---|---|
| 手元に残るデータ | 画面の映像のみ | ファイルそのもの |
| 操作感 | 回線品質に左右されやすい | 庁内とほぼ同じ |
| 端末紛失時の影響 | 情報漏えいのリスクは小さい | 端末内のデータが流出しうる |
| 前提となる条件 | 庁内端末が起動している必要あり | 接続機器の維持管理が必要 |
| 情報部門の運用負荷 | 端末登録と接続管理が中心 | 脆弱性対応・パッチ適用が継続的に発生 |
正直なところ、ここが民間企業と自治体で判断の分かれ目になります。民間では利便性を優先してVPNを選ぶ例も多いのですが、住民情報を預かる自治体では同じ天秤にかけられません。
同ガイドラインでも、7方式は「オフィス業務の再現性」「通信集中時の影響度」「システム導入コスト」「システム導入作業負荷」「セキュリティ統制の容易性」という5つの軸で比較されています。どの方式にも得意不得意があり、万能な正解は用意されていないのです。
画面転送の弱点も、あらためて押さえておきましょう。庁内の端末が起動していないと使えませんし、回線が細い日は操作がもたつきます。大きな表計算ファイルを扱う作業では、体感がはっきり落ちるはずです。
VPNを検討する場合は、接続機器の脆弱性対応を継続できるかを必ず確認してください。パッチ適用が滞った機器は、そのまま外部からの侵入口になり得ます。「導入したら終わり」ではなく、毎年手を入れ続ける前提で予算と人員を見積もる必要があります。
しろ現役SEとして本音を言うと、方式選びの相談で「どちらが安全ですか」と聞かれるたびに答えに詰まります。安全性は方式ではなく運用で決まる、というのが実感だからです。実際、私が見てきた中でいちばん危なかったのは、更新が止まったまま何年も動き続けていた機器でした。
守りたいものと、払い続けられる手間の折り合いをつける。方式選びとは、そういう作業なのです。
画面転送は手元に映像だけを届け、VPNはネットワークそのものをつなぎます。利便性ならVPN、漏えい耐性なら画面転送。自治体では住民情報を扱う前提から、画面転送が主流になっています。
そしてもう一つ、庁内の端末に依存しない道も用意されています。次はその選択肢を見てみましょう。
LGWAN-ASPという選択肢
接続の方法を工夫するのではなく、そもそもLGWANの中で動くサービスを使う。この発想がLGWAN-ASPで、庁内にサーバを持たずに始められる点が最大の特徴です。
LGWAN-ASPは、LGWANを通じて自治体職員に各種の行政事務サービスを提供する仕組みを指します。地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の案内によれば、サービスは5種類に分類されています(J-LIS「LGWAN-ASPについて」)。
| サービスの種類 | 主な内容のイメージ |
|---|---|
| アプリケーション及びコンテンツサービス | 業務システムや情報提供サービス |
| ホスティングサービス | サーバ環境の提供 |
| ネットワーク層及び基盤アプリケーションサービス | 通信基盤や共通機能の提供 |
| 通信サービス | 接続回線に関するサービス |
| ファシリティサービス | 設備・施設に関するサービス |
イメージとしては、閉じた商店街の中にお店が並んでいる感覚でしょうか。街の外に出なくても、必要な用事はその中で済ませられる。そんな作りになっています。
テレワークとの関係で言えば、リモートアクセス機能そのものをLGWAN-ASPとして提供する事業者もあります。庁内に自前でサーバを立てる必要がないため、情報部門が小さい団体ほど検討する価値があるはずです。
利用の流れも押さえておきましょう。LGWAN-ASPサービスを使いたい団体は、サービス提供者が定める利用約款等に基づいて利用許諾を得る形になり、申込みはアプリケーション及びコンテンツサービスの提供者へ直接行います。通常、LGWAN運営主体への料金の支払いや利用手続は不要です。
どんなサービスが登録されているかは、J-LISが公開するサービスリストで確認できます(J-LIS「LGWAN-ASPサービスリスト」)。まずはここを眺めてみると、自団体で使えそうな候補が見えてきますよ。
もっとも、良いことばかりではありません。費用は基本的に有償ですので、無償の試行事業と比べれば予算措置が前提になります。
サービスごとに対応業務や利用条件が異なる点も、意外と見落とされがちです。文書管理には対応していても、財務会計は対象外。そんなケースは珍しくありません。
個別サービスのセキュリティ水準や機能の詳細については、必ず提供事業者の公式資料と利用約款でご確認ください。同じ「LGWAN-ASP」という言葉でも、中身は事業者によってまったく違います。ネット上の紹介記事だけを根拠に、安全性を判断してしまわないようご注意くださいね。
LGWAN-ASPは5種類に分類され、リモートアクセス機能を提供する事業者もあります。庁内サーバが不要な反面、有償であること、対応業務が限られることに注意。判断材料は必ず公式のサービスリストと利用約款から集めましょう。
ここまでで、方式の顔ぶれはそろいました。では、自分たちの団体はどれを選べばよいのでしょうか。
自団体に合う方式を選ぶ4視点
迷ったときは、4つの視点で順番に絞り込んでみてください。技術の比較から入らないことが、遠回りに見えていちばんの近道になります。

| 視点 | 確認すること | 判断への影響 |
|---|---|---|
| ①対象業務 | 重要な住民情報を扱う業務が含まれるか | テレワークに乗せる範囲が決まる |
| ②体制 | 情報部門に何人割けるか | 管理が増える方式を選べるか決まる |
| ③コストと財源 | 予算と交付税措置の活用可否 | 有償サービスを選べるか決まる |
| ④継続性 | 異動・棚卸し・問い合わせに耐えられるか | 3年後も動いているかが決まる |
1つ目の対象業務から見ていきましょう。前述の通り、マイナンバー利用事務系はテレワークの対象外とされ、LGWAN接続系でも大量または重要な住民情報を扱う業務は原則として外すことが適当とされています。まずここで、乗せられる業務の範囲が確定します。
2つ目は、職員規模と情報部門の体制です。専任の担当が一人もいない団体で、機器の管理が増える方式を選べば運用は続きません。反対に人手を割ける団体なら、選択肢はぐっと広がります。
3つ目のコストについては、国の財政支援を確認しておきたいところです。
総務省は令和8年1月30日付の通知で、職員向けテレワークの導入経費について、令和7年度までに導入へ着手している場合に限り特別交付税措置(措置率0.5)を講ずることとしています。対象経費にはICT機器やソフトウェア、ライセンス、シンクライアント化などのセキュリティ対策費用が含まれます(総務省「地方公共団体におけるテレワークの推進について」令和8年1月30日付通知)。
現在も同様の措置が継続しているかは年度ごとに変わります。予算要求の前に、必ず最新の通知でご確認ください。
4つ目は、運用の続けやすさです。人事異動のたびに発生する登録作業、職員からの問い合わせ、年度替わりの棚卸し。導入の瞬間ではなく、3年後の姿を想像してみてください。
一方で、慎重になりすぎるのも考えものです。調査結果には、導入済みの小規模団体が「スピード重視で導入を進め、後から見えた問題は運用しながら随時対応した」と振り返る例も紹介されています。完璧な設計を待つほど、着手は遠のいてしまいます。
無償の仕組みを前提に組み立てる場合は、代替手段も一緒に考えておきましょう。試行事業という位置づけである以上、将来にわたって同じ形で続く保証はありません。「止まったらどうするか」を先に決めておくだけで、いざという時の混乱は大きく減ります。
方式は、対象業務→体制→コスト→継続性の順に絞り込むのが実務的です。国の財政支援は年度ごとに条件が変わるため、最新の通知の確認を忘れずに。ただし決め手になるのは、3年後も無理なく回せるかどうかです。
視点が定まったら、いよいよ進め方の話に入ります。
業務棚卸しから試験導入までの手順
進め方の設計で大切なのは、最初から完成形を目指さないことです。総務省の手引きでも、スモールスタートという考え方が明確に打ち出されています。
その手引きは、テレワーク導入に向けた10の手順ごとに実施事項や検討のポイントを整理したものです。
着手時のポイントとして、「できるところからまずやってみる」「在宅勤務だけがテレワークではない(サテライトオフィスやモバイルワークという選択肢もある)」「部署単位や職種単位ではなく業務単位で検討する」「トップが将来像を描きリーダーシップを発揮する」という考え方が示されています(総務省「地方公共団体におけるテレワーク推進のための手引き」)。
これを踏まえ、現場で回りやすい流れを5段階に落とし込んでみますね。
| ステップ | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ①業務の棚卸し | 業務単位で在宅可否を仕分ける | 課単位で聞くと「できない」で終わる |
| ②方式の仮決め | 想定業務量に見合う方式を選ぶ | 技術比較から入ってしまう |
| ③規程の整備 | 実施要綱・申請方法・勤務時間の扱いを決める | 労務管理のルールが後回しになる |
| ④試験導入 | 少人数・数か月で実施 | 対象が広すぎて声を拾えない |
| ⑤展開 | 出た声をマニュアル化して広げる | マニュアルを先に完成させようとする |
最初の業務棚卸しで大事なのは、課ごとに「できる・できない」を尋ねないことです。同じ課の中でも、資料作成や集計は在宅向き、窓口対応は不向き、と業務単位で仕分けていきます。
続く方式の仮決めでは、月に数日の資料作成が中心なら画面転送で十分足りるかもしれません。ここで初めて、先ほどの技術比較が意味を持ってきます。
三つ目の規程整備では、テレワーク中の労務管理を忘れずに。調査結果でも、勤怠管理システムを導入して出退勤を打刻し、終業時に業務内容を報告する運用にした団体の例が紹介されています。
四つ目の試験導入は、総務課や企画課など情報部門と距離が近い部署から始めると、不具合の吸い上げがスムーズです。期間は数か月を確保できると理想的ですね。
紙や決裁の壁については、先行団体の工夫が参考になります。テレワーク実施前に必要な紙資料をあらかじめPDF化しておく、決裁日を事前に調整しておく、といった運用面の対処です。
窓口がある部署でも、部署内で業務を調整したうえでローテーションを組み、実施している事例が報告されています。さらに、新たにシステムを構築せず既存のものを改修する観点で考えると費用削減につながる、という指摘もありました(総務省「市町村におけるテレワーク導入事例集」)。
推進のしかたにもコツがあるようです。トップダウンで導入が始まりネガティブな反応が出た団体では、テレワークを使う機会が多い若手職員を各課1人ずつプロモーターに任命したことで、情報の発信と浸透が大きく進んだと報告されています。
しろ試験導入の期間中は、専用の相談窓口を庁内チャットに作ってしまうのが効きます。同じ質問が並ぶので、そのままFAQの原型になるんです。実務的には、マニュアルを書くより先にこの窓口を用意したほうが早く整います。
避けたいのは、準備が整ったからといって一気に全庁展開してしまうことです。問い合わせが情報部門に集中し、本来の業務まで止まってしまいます。デジタル推進の担当が一人しかいない団体では、なおさら現実的なリスクだと考えてください。
手順は「業務単位の棚卸し→方式の仮決め→規程整備→少人数の試験導入→展開」の5段階。紙のPDF化や決裁日の調整、若手プロモーターの任命といった先行団体の工夫は、そのまま真似できます。
準備が整えば、あとは走りながら整えていく段階です。とはいえ、走り出せば必ず出てくるのが「つながらない」という声なんですね。
つながらない時の切り分け手順
在宅勤務の朝、画面が真っ暗なまま動かない。この瞬間に慌てないためには、確認する順番をあらかじめ決めておくことが何より効きます。
原因が潜んでいるのは、大きく分けて4か所です。自宅側、手元の端末、庁内の端末、そしてネットワーク全体。自分で確かめられるところから順に潰していくのが早道になります。

| 確認の順番 | 見るところ | 判断の目安 |
|---|---|---|
| ①自宅の回線 | スマホでWebが開くか、ルーターのランプ | 異常があれば庁内へ連絡しても解決しない |
| ②手元の端末 | 再起動、有線接続への切替、端末の時刻 | 時刻ずれで認証が通らない例は意外と多い |
| ③庁内の自席端末 | 電源・スリープの状態 | 出勤者に席を見てもらうのが確実 |
| ④全体障害の有無 | 他のテレワーク実施者の状況 | 複数人なら庁内側かサービス側の可能性 |
とくに②の時刻ずれは、盲点になりがちです。先ほど触れたカードやトークンなど、ワンタイムパスワードを使う仕組みでは、端末の時刻が数分ずれるだけで認証が通らなくなることがあります。
③については、遠慮せず同じ部署の出勤者に声をかけてください。すでに見たとおり、画面転送は庁内端末が動いていることが前提の仕組みですから。
なお、無償で提供されている試行事業のシステムを利用している場合は、提供元の告知も確認先のひとつになります。IPAの利用条件には、事前の予告なくメンテナンスや停止が行われる可能性があること、個別のユーザーサポートは提供されないことが記載されています(IPA「自治体テレワークシステム for LGWAN 利用条件等」)。
この点は、職員へ事前に共有しておくことをおすすめします。知らされていないと、「使えない=誰かの落ち度」という空気が生まれてしまいますから。
情報部門へ連絡するときは、材料をそろえると解決が早まります。発生した時刻、どの画面で止まったか、エラーメッセージの文言。可能であれば画面を撮影して伝えると、状況が一気に伝わります。
絶対に避けたいのが、つながらないからといって個人のクラウドストレージや私用メールで資料をやり取りすることです。焦った瞬間ほど、この誘惑は強くなります。先ほど確認した「データを残さない」設計を、たった一度の操作で無効にしてしまう行為だと覚えておいてください。
もっとも、どれだけ手順を整えても、事故がゼロになることはありません。万が一の連絡が入ったときに担当者が最初の5分で何をすべきかは、こちらにまとめています。

つながらない日は仕事を止める、あるいは出勤に切り替える。その判断を上司が認める空気こそが、実は最大のセキュリティ対策なのかもしれません。
導入率が伸び悩む背景には、こうした「万が一の日」への不安もあるはずです。ですが、確認手順とルールを先に決めておけば、そのほとんどは想定内の出来事に変わります。
切り分けは「自宅回線→手元端末→庁内端末→全体障害」の順に。連絡時は時刻・画面・エラー文言をそろえると早く解決します。復旧を待つ間に私用のクラウドやメールへ逃げることだけは、絶対に避けてください。
最後に、今日からできる一歩をお伝えしますね。自分の課の業務を一枚の紙に書き出し、在宅でもできる作業に印を付けてみてください。
LGWANという壁は、越えられない壁ではありません。仕組みを正しく知り、小さく試すところから、自治体テレワークは動き出します。
まとめ:LGWANの壁を越えて自治体テレワークを実現するために
- LGWAN接続系は外部から切り離された閉域網のため、自宅の端末から直接つなぐことはできません。実務上の選択肢は、庁内端末を遠隔操作する画面転送型か、LGWAN-ASPを利用する方式のどちらかになります。
- 手元の端末にデータを残さないことが、自治体テレワークの絶対条件です。ファイル共有やクリップボード、印刷、USBといった機能があらかじめ制限されるのは、事故を人の注意力に頼らず防ぐためなんですね。
- 認証と持ち出しルールは、技術対策とセットで考えてください。本人認証の徹底や端末の限定に加えて、紙資料の扱いやのぞき見対策まで決めておくことで、初めて守りが完成します。
- 方式選びは「対象業務→体制→コストと財源→運用の続けやすさ」の順に絞り込むと迷いません。令和7年度までに導入へ着手している団体を対象に、特別交付税措置(措置率0.5)による後押しがあります。財源は年度ごとに条件が変わるため、最新の通知の確認が欠かせません。
- 進め方の要は、業務単位の棚卸しと少人数での試験導入です。課単位で可否を尋ねるのではなく、資料作成や集計といった業務ごとに仕分けることで、テレワークに乗せられる仕事が見えてきます。
